宙に舞う紙片・飛ぶチラシ・螺旋綴じの本
三つのシリーズで構成された展覧会である。‘Books: Spiral Bound’,は本年9月藤沢市のGallery-Tで開催された個展で展示したスケッチブックのシリーズで、今回はこれまで未発表だった飛ぶチラシ‘Flying Flyers’と宙に舞う紙片‘Fragments in the air’の他2シリーズも併せて展示する。
‘Fragments in the air’、宙に舞う紙片はdoodling、まさに仕事中の手遊びであり、私の教師時代、何か別の作業中、例えば退屈な会議、文章を捻っている合間、時には昼食時に描かれたものもある。今回は2005年から2008年に描かれたものに焦点を当てるが、35年の勤続期間中描き続け集めた総数はかなりのものになる。このdoodlingは、当時の私にとって、短い創作時間さえ確保することが難しい時には創作者としての最後の砦となった。2011年に退職してからは自由時間が増えたので、doodlingの必要性を感じなくなったが、見方を変えればそれは切迫した表現の動機を失ってしまったということになる。つまり2011年以降、創作行為は全て意識的に目的化され制御されることになったが、それは私が自分の表現の中で最も大切にして来た無意識の要素の多くを失ってしまったということになり、却って表現の自由度、幅を狭めてしまったのかも知れない。
‘Flying Flyers’シリーズは雑誌やチラシ等の印刷物に筆で描きたしたり、引っ掻いたり、色を加えた作品群である。私はデザイナーや、写真家の作った印刷物から強いインスピレーションを受けると思わず手を加え、そこに吸い込まれ、耽溺したくなってしまうのである。この作業は私にとって、無意識のドローイングのバリエーションの一つであり、 ‘Flying Flyers’の代替としてもこの数年来重要なものになってきている。
スケッチブックのシリーズ、‘Books: Spiral Bound’、螺旋綴じの本も以上2シリーズと同様な態度で制作しており、どのように偶然性を作品に取り組み、新しいものを作ろうかと腐心しているのかを実際に検証していただければ幸いである。私にとって制作とは、最初に自分の外側にあるものを導き入れ、次にその自分ではないものと共同で作業を行うことであると考えている。
つまり、私にとってアートとは創作というよりも召喚である。
地場賢太郎
1F Katagiri Bldg. 4-5-2 Asakusabashi, Taitoh-ku, Tokyo, JAPAN