キュレター:Arthur Takehara
プロデューサー:地場 賢太郎
2016年 9月 5日(月) - 9月18日 (日)
15:00-19:00(会期中無休)
レセプション:9月 10日(土)18:00〜
※この展覧会は全3回シリーズの第3回です。
会場: Art Lab Akiba
作品について 内村航
3回目の個展である。3回目ともなれば、現代アートの慣習も知り、コンセプトやステートメントの書き方も身についただろうか。人前で発表する前提で作品を制作しているのだから、そのような作法と無関係ではいられないと思う反面、そうしたものと、本質的な美しさ、あるいは、「芸術の普遍的な意味」といったものとのズレを感じる場面も多い。
この1年間で、テキスタイルをはじめとする世界各地のフォークアートをたくさん見るようになった。それらがもつ自然の素材感、機能の追求から生まれる美、日々の生活と切り離せない宗教性は、ものをつくることへの個々人の意識が、現代のそれとはまったく異なるありかたであったこ
とを示している。
さまざまな変革によって状況は変わる。その連続性の中に今があり、未来がある。手を使いものをつくる時代が終わり、グローバル化・大量移民・戦争の時代を生きる中で、敢えて時代の流れと逆行する理念を持ちながら作品を作り続ける意味とは何だろう?途切れることのない渚の風景の中で、あらゆる二項対立の交わる場で、これからも考え続けたい。
布を織る、絵を降ろす Arthur Takehara
まずこれまでの「渚の風景学」を振り返ってみたい。
第一回には、画面上で布を織ったような、 ある種の張力を感じさせる作品が並んだ。 使用された画材は木炭と紙という典型的な<描くもの─ 描かれるもの>でありながら、それぞれが互いに入り組み、 地と図の区別が消えていくような印象を受けた。
第二回では、実際に内村自ら織った布がキャンバスに用いられた。 石膏の下地塗りの上に岩絵の具で抽象が描かれていたが、キャンバスの質感がそれと対等の存在感を放ち、 ここでも支持体と描画材の境界が曖昧になる様が見て取れた。
こうして、これまでのところ、 内村自身のステートメントに登場する“二項対立” というキーワードは、作品上で「崩れるもの」 として意識されてきた。また、作品の物質的な要素、 つまり画材によってもそれが代弁されていた。しかし、 今回の作風からは、そこから何か突き抜けたような、 より広い視野が感じられる。
作品にはこれまでで最も「何かの形」らしいものが描かれている。 どこまでも崩れ、 輪郭を失った宇宙のような場所に挑むのではなく、 収斂することでかえって自由に身動きを取る方法を発見したのかも 知れない。
今回、渚の「風景」でなく「風景学」 というタイトルが腑に落ちるのは、 内村が効率化一辺倒の世界に背を向けながら、それ以前の「風景」 に還ろうとしているわけではないからだ。そうではなく、「風景」 を記録なり検証なりして、 学問という人の営みの上で相互関係を築こうとしている。 三部作の集大成に相応しく、 彼自身の着地点を示す展覧会になったと思う。
渚の住人 地場賢太郎
ぽよんとしたものを生み出すことが出来るのは素晴らしい。俺が、私が、という自意識の過剰がアートの世界では求められて来たが、それはアーティストにとって、ありのままの自分の創造とは少し違う場所に追い込まれてしまうと言うことではないだろうか。「」の独自の世界観、「」ならではの表現という所有格付きで論評されて来た作家たちの多くは匿名的なもの、普遍的なものの追求を断念し、アーティストという括弧の中から出ることが難しくなってしまったのかも知れない。ぽよんとしたもの、奇異な表現ではあるが、私が今回の内村航作品の中で見つけたものとは、様々な束縛から解放され、それ自体が生命を持っている様なのびのびとした表現のことである。
内村航はクラフトとアートの間を往還し、キャンバスを織ったり、染料や顔料を作ったり、描いたり、染めたり自由に創作を続けている。収集することにも情熱を持っており、彼のアジアの伝統的な染織のコレクションは本当に素晴らしい。手に取ってみると素材や質感の深み、また幾重にも積み上げられた手仕事の持つパワーが感じらられるが、それは本や雑誌の写真からはなかなか伝わって来ないものである。創作すること、収集すること、遠くに行って見ること、身近なものから発見すること、歩くこと、考えること、これら全てが内村の中では等しく大切なことであり、次の創作や収集の原動力になっているのであろう。
陽が傾くと、彼の自宅の仕事場には木洩れ陽や鳥のさえずりが入り込んで来て、彼の機織りの音や、呼吸と一緒になって静かな景色を構成する。そこは渚のような場所なのだろうと私は思う。
アートラボアキバ Art Lab Akiba
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